その他

□SS3
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カウンター席からぼんやり外を眺めていた。

“やっぱり今日は行けない”

待ち人からはそう連絡が入ったけど、以前、二時間遅れで駆け付けて来てくれたことのある彼だから、私は店を出たりはしない。

期待を捨て切れないままの目で行き交う人の影を追って、でも人込みの中でもかんたんに彼を見つけてしまうことのできる私だからこそ、一喜一憂ではない落ち着いた失望感に襲われる。



特別彼が忙しいわけじゃないと思う。

どんなに多忙と言っても学生なわけだし、休みもあるし、なんだかんだ言って要領よく時間作れてるし。

つまりは私が暇人なだけなのだ。

二人の間で流れる時間のスピードが違いすぎて、多分、噛み合ってないのだと思う。

最近忙しいね、あんまり会えないね、私がそう言おうとした時に、彼は、最近会う時間がたくさんあって嬉しいんだと言った。

そんな時私は、「ちゃんと部活出てる? 部長の仕事、しっかりやってる?」なんて、自分のことを後回しにするような、理解ある彼女を気取りながら、虚しさの中に自分を追い込んでしまうわけで。

(ばかなやつ)

それでも彼が、「君と居ると時間がゆっくり流れるような気がする」なんて笑うもんだから、私はつられて、ずっと暇人のまま彼を待ち続けているのも良いかな、とか、丸め込まれてしまう。

彼が走って駆け付けて来たとき、そこに私が居なければ、彼はきっと悲しむのだろう。

だから私はきっと、そこに居なければならないのだ。



外を見る。

日が沈む。

人の波が増える。

店内が賑わう。



隣の席に置いたかばんを、私はどかさない。








fin

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