その他
□真田と楽しい交換日記
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[11月9日(日)]におう
了解ナリ☆
今日は早めに目が覚めたから、ダーツをワンゲームやって登校しようとしたんじゃが思ったよりも寒かったからそのまま二度寝した。
もう冬じゃき、冬眠しとうてたまらん。
たまらーん。
朝の○×テレビのルーレット占いを見たら、射手座が一位になっとった。行きに丸井に会ったら珍しくスナック菓子の小袋を分けてくれたんじゃけど、菓子はあんまり食わんし微妙な気分だった。
午前の授業が早めに終わったから早速購買に向かったら、例の幻のカルビサンドはまだ残っとったが、貰ったスナック菓子のせいであまり腹もすいとらんかったから飲み物だけ買って教室に戻った。
あの少量のサンドイッチに大人数の生徒が群がるかと思うと、少しうんざりした気分になるのう。
人混みをかき分けるのは一苦労じゃき、次の時はジャッカルに頼むなり。
[十一月十日(月)]真田
今朝方、いつものように通学前の走り込みをしていたら、大通りの歩道で放浪犬に遭遇した。
首輪を付けていたから野良ではないだろうが、迷い犬ではあるかもしれない。
ならば飼い主を捜さねばと思い、犬に近付き何をしているのだと声を掛けたら、奴は鼻を鳴らして去っていった。
何たる無礼者、最近の飼い犬は躾がなっとらんようだ。
主人の顔が見てみたいわ! 次にあいつを見つけたら俺が躾けてやろうと思う。
まあしかし、無事住処に帰宅したというのならばそれはそれでもかまわんが……。
躾けてやることは叶わんが、事故になど遭われるよりは余程よかろう。健在を祈る。
[11月11日(月)]におー
最近少しばかり疑問に思っちょることがあるんじゃけど……風呂に入って上がった後、パンツ一丁で部屋をうろつく習慣があるのはウチんちだけなんじゃろか。
さっきクラスの女子が、自分の父親のそういう行動を批難しとったのを偶然耳に挟んで、カルチャーギャップに驚いたぜよ。
こんな近くでも文化の違いは現れるもんなんか。
父親どころか、うちは母親も姉貴も風呂上がりは暫くパンツ一丁じゃ。
姉貴なんか俺が女のたしなみってものを気遣ってやって、せめて上は付けたらどうじゃって注意すると、隠すのももったいないなか!
とかなんとか言って逆に見せびらかして来よる。
姉貴のはでかいくせに形もやたら整っとるから見せたがるのも分かるけん、じゃけど、姉貴じゃしのう、身内じゃしのう。
それにしても風呂上がりパンツ一丁はうちだけなんか……。
[十一月十二日(火)]真田
今日の部活動は部員全員皆気が引き締まっており、とても充実した良い練習だったように感じられた。
刻苦勉励の姿勢、確乎不抜の精神の下、皆が日々前進を成している様子を肌で感じられ、俺は嬉しく思うばかりだ。
目下狙うは来年再び行われる全国大会での王者銘の奪還。
この調子であれば赤也の代も、俺が懸念していたほどに心配は要らないかも知れん。
来年、俺たちが進学する高等部も楽しみではあるが、進級した後の中等部もとても楽しみだ。
む、などと書いているうちに母が風呂から上がったようだ。
いつものように寝間着を着た母が声を掛けに来てくれた。
俺も寝間着を持って風呂に向かうとする。
[11月13日(水)]におー
昼休み。
幻の極旨カルビサンドを買ってくるぜよ……ジャッカルが! と叫んだら、「俺かよ!」といつものお決まりの台詞が帰ってきてちょっと気分が良かった。
もうヤツにとっては条件反射の域なんじゃろうなぁ。
ジャッカルのあの台詞は、もはや「いいぜ!」という了承の言葉にしか聞こえん。
そして実際に厄介ごとを頼まれてくれるから本当に助かる。
大変じゃのうとは思うがそういう立場を定着させてしまった本人にも責任はあるけん。
心おきなく頼み事をさせて貰うなり(おおっと怒ったらいかんよ真田。これはこれで、俺らが仲良しだって証拠じゃ)
それにしても本当にいいヤツじゃのうジャッカルは。
これで俺もついに幻の超絶品カルビサンドにありつけるというわけじゃきに。
じゃけど世の中そうそう上手くは運ばないらしいのう。
ついに、と思ったのもつかの間だったぜよ。
先陣を切って購買に乗り込んだあの褐色の光が周囲の猛者にもまれ、はじき飛ばされる瞬間を俺たちは目撃してしまったんじゃ。
負傷した脱落者として俺たちのもとに運ばれ帰ってきたジャッカルは、動かぬ死体のようだったぜよ。
ブレザーははだけてシャツのボタンは飛び、頭の光は衰え見るも無惨な姿だったなり……。
死んだらいかん、諦めるんじゃなか! と頬を叩いて励ましたがジャッカルは首を横に振るだけで、どこぞのイップスと似通った状態になりはてとった。
ああジャッカルはもうだめじゃ……。
恐るべし極旨カルビサンドの人気。
しかし、再起不能にも思われたジャッカルだったけどその日の部活にぼろぼろの姿のまま参加しとった。
疲弊しきったまま気合いだけで練習メニューを余さずこなしとったのう。
トラウマもより強い恐怖には勝てんということか……っと、今のはこっちの話じゃ。
まぁそのお陰で、ジャッカルの負傷が俺のせいにならなくて済ん……いや、なんでもなか。
自分でやり始めた日記だけど、ついつい要らん本音まで出てしまって結構危険じゃのう。
とにかく、ジャッカルには本当に感謝しないといけん。
明日優しくあの頭を撫でてやろう。
話は変わるが、昨日のこの間のカルチャーギャップの一件、別のクラスメイトにも同じ話をしたら、そいつの家も同じように風呂上がりはパンツ一丁で爽快☆ らしいぜよ。
そいつの家にはひとつ下の妹がおるらしいが、外では自分の素行を隠して「えー裸? ありえなーい」と行儀の良い少女を振る舞っちょるって聞いた。
妹繋がりで同じことを幸村に聞いたら、「何を想像してるのかな?」って笑顔で睨まれたけど、どうやら世の中には隠れているだけで、うちと同じ爽快カルチャーな家庭もたくさん存在していると見た。
これで疑問は一挙解決じゃ!
[十一月十四日(木)]
……昨日の練習でジャッカルの動きが異常に悪かったのはお前のせいか仁王。
いやしかし、購買に向かった程度で練習に支障が出るようでは、立海レギュラーの名に恥じる。
奴にはもう少し鍛えろと俺から言っておくことにする。
下校途中、またあの放浪犬に会った。
未だ外をふらついているのだから、この前は迷ったままで家には戻れなかったのだろう。
首輪を遠目に確認したが、名札らしきものもついていなかった。
これでは誰かが送り届けてやるようなことも出来ん。
本格的に保健所に連れて行かれるようなことになるのだろうか。
二晩もふらついていたということは腹も空かしているのかもしれん。
二度目に会ったら俺は犬を躾てやろうと考えてが、今は少々やつの境遇を哀れに感じている。
少しだけ毛並みは乱れてはいるが、もともとは艶の良い犬だったという気配が感じらた。
きちんと面倒は見られ、それなりに優雅な暮らしをしてきたのだろう。
犬風情が贅沢をとは思うが……。
だが今こいつがひもじい思いをしていることは確かなのだ。
躾など後でも出来るだろうから、今は何か食わせてやるのが人情というやつではないかと思って、俺は「何か食わせてやる、付いて来い」と首輪に手を掛けようとした。
ところが恩知らずなことに、至極忌々しそうに、触るなというように吠えかかられた。
仕方なく手持ちの栄養食(幸村が食べかけを押し付けてきたのだが、処理に困って今まで鞄にしまってあったものだ)を目の前に置いてやると、臭いを嗅ぎ、何度か舐めた後にそのまま置き捨てて去っていった。
何という信じられない態度をとる犬だ! こちらを顧みもせずに走り去ってゆくヤツの背中を見つめて俺は心に決めた。
次こそはその曲がった根性、叩きなおしてくれるわ!
[11月15日(金)]におー
ブン太にカルビサンドを買って来てくれんかと頼んだら軽々了承してくれた。
ジャッカルが! の言葉と一緒に。
いかんぜよ、さすがにそれをしたらジャッカルが今度こそ再起不能になってしまうき! そんなことになったら部のダブルスが整わなくなって、そしたら責任が巡りめぐってこの俺が酷い目に遭わんとも限らん。
それはだめじゃ。
真田を怒らせたらいかん。
絶対にいかん。
そう思ったえらい仁王くんは、ブン太に頼むことを止めて、赤也のところに出向いた。
でもこの間のジャッカルの無惨な姿を一緒に目の当たりにしとった赤也は、俺が“カ”の言葉を口にした途端に青ざめて、勘弁してくださいよと本気で泣き付いて来よった。
近くに居た柳生を振り返れば、速攻で視線を逸らされるし。
これはもういろいろ駄目そうじゃと思って仕方なく参謀のところにアドバイスを求めて会いに行ったら、俺の顔を見るなり「あれか、諦めろ」と結論から突き付けて来よったぜよ。
でもその後「いや、しかし……もしかしたら」と何か続けようとしとったけど、その先は何だか聞いてはいけない空気が漂ったから保留にした。
聞いたら後に戻れない気がした。
これ以上の深入りは相当なリスクを伴うに違いなか。
ああもう手に取ることすら適わんのかのう、幻の絶品カルビサンド……。
最初は少し興味があっただけじゃったけど、何だか執着してきとるぜよ。
食べてみたいナリ……。