その他
□真田と楽しい交換日記
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『真田と楽しい交換日記』
「真田、ほれ」
「何だこれは」
廊下を歩いていたら偶然に仁王とすれ違った。
歩きながら軽く言葉を交わし、通り過ぎ様に名前を呼ばれ振り向くと、まるで見覚えの無い大学ノートを一冊、至極当然のように手渡された。
表紙には何も書かれていない。
足を止め中身を確認するよう一ページ目をめくれば、そこには仁王の筆跡と思しき細い字体で短い文章が綴られている。
[11月3日(月)]仁王
今日から交換日記を始めるぜよ。
堅物な副部長とうち解け、互いに心を掴むための、仁王くん決死のえくすちぇんじだいありー作戦ナリ。
今日からよろしくのう、真田。
「……仁王。貴様一体何を考えて」
顔を上げると、やつは既に姿を消していた。
[十一月四日(火)]真田
相変わらずお前の考えていることはわけがわからん。
このようなたるんだことをして一体何になる、確固たる目的が有るのならば直接俺に言えば良かろう。
生憎だが、俺は交換日記などという小学生の女子がするような女々しい趣味は持ち合わせていないのだ。
くだらんことをしている暇があったら練習に励め。
[11月5日(水)]仁王
昼休み、購買に行って、一日十個限定生産・幻の超絶品カルビサンドを買おうと思ったら早々に売り切れとった。ショックなり。
真田、くだらんとは何事ぜよ、交友を深めるには互いのことを知るのが一番じゃ。
その方法として交換日記は最適の手段、二人の絆は強くなり、そして深まった友情はテニスのチームワークとしても役に立つ。
一石二鳥じゃき、そうは思わんかのう真田。
明日は早めに購買に向かおうと思う。
[十一月六日(木)]真田
わけがわからん。
ならば部員全員にノートを回さなければ意味が無かろう。
何を企んでいる。
先日も書いたが、お前と俺との間だけで行うのであれば日記という形を取らずとも済むだろう。
そもそも絆とはこのような方法で深めるものではない。
それに今更とも言えるのではないのか?
どうしてもやるというのならば筋を通せ。
[11月7日(金)]仁王
……部員全員、何人居ると思っとるんじゃ。
全部で52人、回したらほとんど2ヵ月に1回の日記ナリ。
日記じゃないナリ。
それに、俺も初めに書いたと思うがのう。
この交換日記は、より互いを理解しうち解けるためのもの、今更というのはおかしいと思うのう。
確かに真田は見るからに包み隠さない性格じゃ。
でも不必要なことはなーんも喋らんし、部活と学校のこと以外俺は全く知らん。
それに俺は俺で、わざといろいろ隠してることもあるかもしれんしのう。
シャイで繊細な仁王くんは、面と向かって言えないこともたくさん抱えてるかもしれんとは考えないんか?
おーそうか、真田は俺のことなんてこれっぽっちも知りとうないんか。
ほーう、そうなんか。
[十一月八日(土)]真田
む……そうは言っていないだろう。
俺はただ……わかった、ならば俺がこのやり取りの意味を認めるまで、試しという形で日記を続けるぞ。
俺が再び無意味と判断したらお前の作戦はそれまでだ。いいな。