拍手ログ

□跡部
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「待ってろ」




君がそう言って日本を発ってから、何年もの月日が経ちました。




私は君を、待ち続けています。




君と過ごした、高い、高い、マンションで、一人君を待ち続けています。




椅子に腰掛け、肩掛けを羽織り、本を手にとり静かに貢を繰々ります。




手にした本は、古い西洋のお伽話。




人魚の姫や、眠る姫、沢山の姫が居る中で、一際輝くラプンツェル。




高い、高い、塔の中、ただただ王子を待ち続け、静かに髪を結わいます。




私と彼女は似ているわ。




一人で"君"を待ち続け、一人で静かな一日を過ごす。




ラプンツェルにとっての"君"は、逢ったこともない王子。




私にとっての"君"は、一緒に過ごした愛しいひと。




過ごした時間に差はあれど、"君"への想いは同じです。




愛しい、愛しい、愛しい君。




ラプンツェルは、まだ見ぬ君を想います。




私は、離れた君を想います。




君と逢えるときを願います。




小さなカップに紅茶をそそぎ、小さな砂糖をぽちゃんと落とし、花びらのような溜息ひとつ。




嗚呼、君に逢いたいわ。




ラプンツェルの憂鬱





(〜091230)

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