小説置き場
□獄中にて。罪人と。
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「ねぇ、ところでお兄さん。お兄さんは人生ってどう思う?
……また無視するんだ。
…ふぅん。じゃあそういう事にしておいてあげる。
私はね、人生って意味が無いものだと思うわ。
別にこれは、私自身が唯の虚無主義、刹那主義に乗っかってカタルシスに悦楽を感じている訳じゃない。うん、断言出来るわ。
だって、意味を築き上げた所で、その『人生』よりも相対的に価値が無く、かつ、絶対的に殺傷力を備えた存在がソレを奪うんだもの。
…そう? そんなにおかしい?
考えてもみてよ。お兄さんの人生だって、私が今食事用として貰ったスプーンを投げつければ、ものの数秒で断つことが出来るのよ?
ううん、殺せる。別にこれ以上は関係無いわ。ちゃんと私の資料読んだ?
……ふぅん。声が震えて無いって事は本当にそう思ってるんだ。変な人。
まぁ、どうせしないんだからどうでもいいことなんだけどね。…えっと、そう! 人生。
そんな砂場に砂城を築く作業を好き好んでするのは、ねぇお兄さん。お兄さんは何でだと思う? って話。
……うん、暇。お兄さんの返答が退屈なら暇過ぎてお兄さんが死ぬかもしれないわ。
…ふぅん。
つまんない。
…殺さない。それもつまんなし。
いいえ。そんなつもりは無かった、なんて言ったらお兄さんは怒る?
あっそ。じゃあ言わない。お兄さんとまだ話したいし。
覚悟? それは無いと思うよ。無いって言える。
私は素手で53人、ナイフで17人。日本刀で1人、アイスピックで1人殺したけど、その72人の中にお兄さんが今言ったような覚悟を持っていた人はいなかったよ。
そんな言い分なら何とでも言えるね。私は確率の話や可能性の話をしてるわけじゃないわ。
……それは、卑怯よ。
ううん、絶対卑怯よ。そんな事をわざわざ言わせる為にここまで話をしたの?
……お兄さんは残酷だね。何が残酷かって、優しい振りを最期まで続け続けるとこが残酷だよ。ペルソナは、外す瞬間があるからペルソナなの。仮面を外さなかったら、もうそれは素顔じゃない。
…ねぇお兄さん。お兄さんは好きな人いる? 殺したい人いる?
あぁ、そう。そういう事言うんだ。たまにしか話す機会の無い私にわざわざ嘘を吐くんだ。
違うよ。事実と本心を合わせる必要は無い。だけど、どっちかを意図的に排除して伝えるならば、それは嘘だよ。
違うの? お兄さんは違うんだ。
……それでいいの?
どこにも無いけど、ね。
うん。分かるわ。
あぁ、そう。
……またこの仕事? 今度は何くれるの? この前の続き?
…分かった。
ちなみに、誰なの?
…あっそ。死んじゃえばいいよ。」