テニス駄文

□Fragile
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俺たちは、何故惹かれ合い、結ばれたのだろう。
互いに、大切なものが、在ったのに…。



【 Fragile 】



「……」

目を開けると、自分の部屋のものではない、見慣れた天井。
背中には、自分のものではない、感触が自身に染み込んだベッド。
そして、真横には…。
きっと、この世で一番愛しい人の、寝顔。



昨日は、飽きるまで抱き合って過ごした。
そういう事をするために、この部屋に泊まったわけではないけれど、毎日部活が忙しく、こんな風に明日の事とか何も気にせず過ごせる事なんて滅多とないから、なんとなくそんな雰囲気になってしまったのだ。

綺麗な顔で微かな寝息を立てるこいつに、休みはどうするのか聞いてみれば、両親が旅行で留守だとかなんとか言ってくるし、半ば強引に部活帰りにそのまま立ち寄ったのが始まりだ。

まずは、部活でかいた汗をシャワーで流し、実は意外と料理好きな俺が夕食を作って、一緒に食べた。
それから参考書をめくり始めたコイツからノートを奪い取って、邪魔をして。
奪い返そうとするコイツの唇を、俺が奪った。
それが、昨晩の俺たちの行動を決定付けた。

一度味わったら、止める事なんて出来ない。
それは俺たちがガキだからとか、俺が人知れず人肌恋しいタイプだからとか、そんな事で割り切れるものじゃない。
俺がバカみたいにコイツに惚れてるせいなのかも知れない。

一言で言うなら、コイツは、甘い。
この欲望が満たされるまで、食べつくすまで、止められない。

「……」

見るからに真面目そうで、お堅そうで、俺なんか受け入れるようには到底見えない。
なのにコイツは、俺を求めるのだ。
俺が、彼を求めるのと、同じ熱さで。

「ん……」

「起きたか?」

「…おはようございます…。仁王くん…」

「おはよう、柳生。よう眠っとったの」

視力のおぼつかない目で俺を捉えてそう切り出した柳生に俺は、ベッドサイドに放り出されたままのメガネを手渡した。

疲労からなのか、虚ろな視線で俺を見ながら横になったままの柳生に唇を重ねると、彼は僅かに身体を強張らせ俺に応える。

紳士と呼ばれる普段の姿から、一体だれがこんな彼の姿を想像できるのだろうか?
俺だけが知る、本当の、柳生の姿。
このギャップが、また俺を誘惑する。

「ダメですよ…朝からこんなふしだらな…!」

口付ければ、恐る恐る俺の舌に、自分のそれを絡めて目尻を染めておきながら、ふと唇を離せばこんな返事が返ってくる。

けれど、俺は知っている。

「何言ってんじゃ。しっかり反応しとるくせに」

柳生も、俺が欲しくて仕方がないのだと。

「な…ッ!何を言うんですか!仁王くん!」

「あー、はいはい。分ったから…」

「ん…ッん…!」

ほら。
身体に指を滑らせれば、悪態をつきながらも抗う事をしない。
分りきっているのだ。
俺からは、逃れられない事を。

「イヤなんじゃったら、やめちゃるよ?」

「…仁王くん…ッ」

分りきっているのだ。
互いに何を、必要としているのかを。
俺の、柳生の身体が、こんなにも渇いていることを。

「せ…せめて、これを…」

柳生が先ほどかけたばかりの眼鏡を外そうとする手を、俺は一纏めに掴んで阻止をする。
眼鏡を外す理由はただ一つ。
“恥ずかしい”から。

抱かれている最中に、クリアな視界で俺と目が合うのが絶えがたく恥ずかしいらしい。
…無理も無い。
こいつもれっきとした男。
俺と同じように、女という存在がいる。いわゆる、カノジョというやつだ。
普段は抱く側の自分が男に組み敷かれ、甘い声を上げる現実は、何度味わっても慣れることはできないらしい。

だから俺は、あえてそれをさせない。

「…しっかり俺を見とけ」

男同士でこんなこと、どれほど不毛な事なのかは分っているつもりだ。
けれど、離れられない。離したくない。

俺は決して、女と別れろとは言わない。
けれど、その代わりにしっかりとその身体に刻みこんでやるのだ。

誰にも渡したくない。

……柳生は、俺のものだ。




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