テニス駄文
□ミチ
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「のう柳生。プレゼント、何が欲しい?」
「プレゼント?」
「今年はお前さんの欲しいモンにしようと思ってな」
「…あの…一体何の話ですか?」
【 ミチ 】
どんな答えが返ってくるのかと楽しみに構えていた俺にとって、この返事は想定外もいいところだ。
これが丸井や幸村ならばワザとなのだろうと思えるが欲しい、相手は柳生。
本気で分かっていないに違いない。
共に過ごす時間の長さからかすっかり移ってしまった、考え事をする時に口元に触れる俺の癖をそのままトレースした姿で不思議そうに俺を見ている。
そんな姿を可愛いなんて思えてしまう俺も大概だとは思うのだが、事実そうなのだか仕方がない。
「誕生日じゃよ。お前さんの」
「私の?」
「そうじゃ。来週じゃろうが」
「そう言えばそうでしたね」
「そう言えばって…」
俺の誕生日の時はずいぶんと早くからソワソワして、当日は何が食べたいのかとか、どこかに出かけようかとか、やたら楽しみにしてくれているくせに、自分の事となるとこれだ。
謙虚を通り越してボケているレベルに近いものがあるような気がするのは俺だけなのだろうか。
「お前さんにはいつも感謝しとるけん、今年は奮発しようかと思うての」
「そ…っそんな!別にプレゼントなんて頂かなくても覚えて下さってるだけでも充分ですから!」
「今更何遠慮する必要があるんじゃ。気にすんな」
「でも…っ仁王くん、ここ数ヶ月はすごくバイト頑張って貯金していたではないですか…。それを私に使うなんて間違っていますよ!」
「あのなぁ……」
鈍いにも程がある。
ここまでの会話の流れと俺の状況とを分かっていながら、この反応。
そもそも俺が急にバイトを始めたのはこの為だ。
高校に入りしばらくの時間を経て、自分の身の回りに多少なりとも訪れた変化と違和感にも慣れて生まれた余裕のおかげもあるが、中学の頃には多かった不自由の一つ、金銭面での問題がそれなりに解消された今、与えられる安らぎに何か形になるものを返したい。
そう思っての行動だった。
バイトを始めた理由を柳生に教えた事は無いが、ここまでヒントが揃っていて俺の努力の理由など他にはないと分からないものなのだろうか…。
「金貯めてたんはお前さんの為に決まっとろうが」
「私の為…?」
「ったく。こげに恥ずかしい事言わせるんじゃなか。少しは空気読みんしゃい」
「仁王くん…」
俺の言葉に柳生は、信じられないというような表情を浮かべたが、すぐに嬉しそうに目元を緩めた。
「ありがとうございます。でも、私にはそのお気持ちだけで充分ですよ」
「あー…それ、絶対言うと思った。じゃけん却下」
「えっ!?それは困ります!」
「困るんはこっちじゃ。もう俺は何ヶ月も前から決めとったんじゃ。今更予定は変えられん」
「でもっ…」
「でも、じゃないん。人の好意は素直に受け取るもんじゃよ」
「……」
「で、何が欲しい?」
焦りと困惑を入り混ぜた顔でこちらを見る柳生に再度尋ねると、やっと観念したのかまた口元に触れながらしばらく黙りこんだ後、笑顔を浮かべた。