テニス駄文
□サクシ
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「あっそ!知らんで結構」
「では今日で終わりにしましょう。あなたにはもう付き合いきれません!」
「おー。これから小言聞かんでようなるんかと思ったらせいせいするわ。女みたいに細かい事でいちいち文句つけよって鬱陶しい」
部室内に響くお決まりの言い争いに見かねた柳がそれを止めようとしたその時。
ピシャリと響いた鋭い音に一同が目を見張った。
「マジかよ…」
「あの柳生先輩が…」
「仁王を殴った!?」
平手打ちをまともにくらった仁王が目を白黒させているのをよそに柳生は、にっこりと微笑むと、彼を叩いた手をハンカチで丁寧に拭いながら部室をあとにした。
【 サクシ 】
「…で?まだケンカしてんの?」
柳生に三行半を叩きつけられてから、既に二週間が過ぎていた。
すれ違っても目すら合わせない柳生の態度に溜め息の尽きない仁王に見かねた丸井が帰り際にそう訪ねると、不機嫌丸出しの返事が戻ってきた。
「ケンカも何も。もう別れたんだし、関係ないじゃろ」
「よく言うぜ。寂しそうにいっつも柳生のことばっかに見てるくせにさ」
「バカな事言いんしゃい。んなワケなかろうが」
「はいはい。強がりはいいから素直に謝ったら?原因なんてちっぽけなもんだしさぁ。今回の件はどう考えたってお前が悪いと思うし。このままだと本当に柳生に愛想つかされちまうぜぃ?」
「だから!もう関係ないって言うとろうが!」
丸井の的を得た言葉に返す言葉も見つからず仁王は、苛立ちながら鞄を手に席を外した。
確かにいがみ合いの原因はいつだって些細な事で、柳生の言い分が正しい。
ただ、正論を突きつけられると誰でもプライドに障る訳で、言い返したくもなるものだ。
例えそれが理にかなっていなかったとしても。
「お前さん言われんでも分かっとるぜよ…あいつが何も悪くない事ぐらい…」
仁王は、口の中で小さくぼやきながら二週間前までは柳生と歩いていたはずの帰路についた。
苛立ちと寂しさが混在しながら歩いていると、ふと携帯電話が震えた。
きっといつものように柳生が、仲直りを持ちかけてきたに違いない。
「柳生か?」
確認もせずにそう思い込み、期待を抱いて携帯を開いた。
「残念ながら外れだ、仁王。俺だ」
「あ…」
しかし相手は柳で、仁王はガクリと肩を落とした。
「…で、何じゃ。電話なんて珍しいの」
「いや。柳生との事が気になってな」
「お前さんまで…。一体何が言いたい?」
「記録更新の知らせだ」
「はぁ?!」
丸井に引き続き柳まで、一体何だと言うのか。
露骨に鬱陶しそうな声のまま返すと柳が受話器の向こうでクスリと笑うのが聞こえて仁王は、舌打ちをした。
「お前たちがいがみ合っている期間がな、過去最長になっているぞ」
「だから何だって言うんじゃ」
「まあそう怒るな。落ち着いてよく聞け。仁王」
今までの穏やかな口調を引き締める柳の言葉に仁王は思わず足を止めた。
過去の経験からこういう言い回しの柳の言うことを聞く事が間違いなく自分にとってプラスになるということを仁王は身を持っ知っている。
抱えている複雑な気持ちが消えた訳ではなかったが、耳を傾ける事に異存はなかった。