テニス駄文

□LOVERS DAY
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「あの…前から気になっていたのですが」
「なんじゃ?」
「何故いつも赤いものを使っているんですか?」

そう言うと柳生は、俺の髪を結ぶ赤いゴムに触れた。

「これか?これはな…」





あれはまだ俺たちが1年の頃。
ちょうどバレンタインの日、俺たちは始めてダブルスを組み、練習試合に臨む事になった。
常勝を理念と掲げるテニス部にとって敗北は許されざる行為であり、俺も柳生も緊張を隠せずにいた。

「もしかして髪、少し邪魔だったりします?」

ウォームアップも終え更衣室のベンチに腰掛け、不安や緊張を紛らわせるべく伸びきった襟足を弄る俺に柳生は、そう尋ねた。

「そうじゃの。汗かいた時とか張り付いて気持ち悪いっちゅーか…」
「そうだったんですね」
「そんな事よりも、そろそろ行かんとな」
「…あ、ちょっと待って下さい」

柳生は鞄から何かを取り出しながら、ラケットを手にコートに出ようとする俺を引き止めた。

「なん?」
「そのまま、動かないでもらえますか?」
「?」

横目で窓に映るその様を確認すると、柳生が優しい手つきで俺の後ろ髪を赤いリボンで結っているのが見える。
大きな手で器用に結び目を作ると柳生は、その姿になぜか目を奪われたままの俺の肩を叩いた。

「さあ、行きましょうか」
「えっ?ちゅーかこれ何?」
「さっき頂いたプレゼントに結ばれていたリボンです。すみません、手近なもので片付けてしまって…」
「…いや…」

どうやらこのリボンは、柳生が貰ったチョコの包装に使われていたらしい。
すぐに機転が利くところは、流石というべきなのだろう。

それにしても何だか心がくすぐったい。
俺はそんな思いを誤魔化すようにその結び目に触れながら、柳生に促されるまま、コートに向かった。

この日の試合は、俺たちの不安に反してストレート勝ちを納め、それ以来負けナシでダブルスを組む始めの一歩を飾ったのだった。
そして、それは同時に俺の中にお前と言う存在が根付いた瞬間でもあった。





「…やっぱやめた」
「えッ!?」
「理由はお前さんが一番良う知ってるはずじゃき。自分で考え」
「私が…ですか?」
「そうじゃ」
「そんなのわかりませんよ。わからないから聞いているんじゃありませんか」
「…分らんなら分らんでエエよ。俺にとって意味があればそれで…な?」
「そんな…」

ただの願掛けなら簡単に教えてやってもいい所だが、これには本当に特別な意味がある。

「…ああ。そげに気になるんじゃったら2週間後に教えてやらん事もないかな」
「2週間…ですか?」
「だから予定空けて大人しゅう待っとり」
「……2週間後ですね。…絶対ですよ?」
「ああ。分ったわかった」

不機嫌そうに眉をしかめる柳生の肩越しに見えるカレンダーに、誰が付けたのか印の入った日付。
それは2週間後の、中学生活最後のバレンタインデーを示している。

さて。
何も知らない柳生に、スケジュールの都合はつけさせた。
後はどうやってこの天然ちゃんにいかにこの想いを伝え、驚かせようか。

柳生の驚く姿を想像すると俺は、思わず笑みをこぼした。



*****


バレンタイン2週間前にUP。
次のお話は柳生の独白。
びっくりするぐらい柳生が乙女なので苦手な方は2ページ目を飛ばしてください。
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