テニス駄文

□海
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将来医師を目指している柳生は立海大付属の高等部へは残らずに、同じ県内とは言え、違う高校に進学した。

仁王はそのまま高等部に進学したが、互いに連絡すら取らずにいた為、彼がテニスを辞めた事を柳生は、風の噂で知った。

柳生もまた、仁王と同じくテニスをやめていたが、それは勉学に励むためは勿論の事、何よりも仁王とのダブルスの楽しさを知ってしまった以上、他の人と組む気にもなれなかったし、今更シングルスプレイヤーを目指す気もなかったからだった。

仁王のテニスに打ち込む姿が好きだった柳生にとってそれは悲しい事だったが、彼があれほどの熱意と実力を持ちながらその道を絶ってしまった理由が恐らく自分と同じであろうと理解できたからこそ、何も言えなかった。

いつか仁王が自分を忘れ本当に笑顔で話が出来る様になった時にそれを伝えたい。
そう思いながら、淡々と日々を過ごしていた柳生が、高校生活にも慣れた頃、それすらも叶わないのだと知った。

卒業以来、近くに住んでいながらすれ違う事すらなかった仁王が、この街を去ったのだと柳から伝え聞いたのだ。

父親の仕事の都合で生まれ育った地に戻ったとの事だった。

柳生にだけは何も言わずに姿を消した仁王に対して柳は二人の間には仲間である自分たちの知らない何かがあるのだと言うことを瞬時に察した。
彼は仁王の連絡先を柳生に伝えようとしたが、柳生は必要ないと言ってその申し出を丁重に断った。

今仁王がどこでどの様な暮らしをしているのか。
知りたくないわけなど無かったが、仁王が連絡を寄越さないという事は、その必要性を感じていないからなのだろう。
もしくは彼の傷はまだ癒えておらず、自分との接触を拒絶しているのかのどちらかだ。

そう判断すれば悲しみと自責の念だけが胸を襲い、自分の存在がいかに彼にとって不必要なのかを思い知らされる。
そんな自分から連絡が来たところで仁王にとっては迷惑に違いなく、せっかくの柳の心使いも無駄にしてしまう。

そう思うと、とてもではないが聞くわけにはいかなかった。


結局、それから仁王の居場所も状況もわからないまま数年の時が流れ、柳生は念願の医大への入学を果たした。



【 海 -迷子・続編- 】



それなりの期待や不安を人並みには抱えながら入学した大学での生活も、おおよそ自分の思い描く予定の通りに時間は経過し、日々が過ぎてゆく。

勉強も、柳生にとってみれば思うほど大変ではなかったし、仁王と別れて以来、本来の柳生がそうであるように再び他人にも自分にも興味を示さない生活に戻った今、人間関係も円滑に進むのは当然の事で、乱れることも無ければ楽しみも無かった。

それが自分の理想の生活なのだと思いながらも、仁王と別れてからというもの、からっぽの自分を認めざるを得ないのもまた事実で、その空虚を埋めるために暇な時間があれば読書や勉学に時間を費やす日々は虚しさばかりが募る一方だった。

恋人も作らず、稀に中学時代のテニス部仲間と食事に出かけたり年に数回テニス場に軽く打ちに行く程度しか娯楽らしいものもなく、ただ時間が経過していくだけの、淡々とした日々が柳生にもたらせたものは学年主席の成績だけだった。

それを羨む者もいるだろう。
しかし、柳生にとっては喜ばしい事でもなければ意味すら持たない、ただ目の前の“現状”と“結果”に過ぎない。

自分が欲しいと願って手に入れたものではないのだから尚更だった。
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