遙か部屋

□愛しいキミ(友鷹)
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「またそんないい加減な事を…!」

「いい加減なんかじゃないさ。鷹通。私は本当に…」

「笑顔の時の友雅殿の言葉なんて、そうそう信じられませんよ」

薄く綺麗な唇に辛辣な言葉を乗せて、着物の裾を翻し私に背を向けると、何事も無かったように立ち去る君。
もう何度となく繰り返されたこの光景に終止符を打てるのは、いつになるんだろうね。


【愛しいキミ】


毎日のように、こんなにも正直な想いを告げ続けていても、全く相手にしてくれない。

「そういう冗談、関心できません」

この私が、こんなにも一途であるなんて考えられない事実を、いとも容易く流してしまうなんて、なんと勿体無い事なのか。
君はわかっているのだろうか。

「どうして冗談だと思うんだい?」

何故そんなにも頑なに否定するのか。
不思議で仕方がない。

「どうしても何も…。明らかに対象を間違えているではないですか」

「間違えている?私がかい?」

「友雅殿以外に、他に誰がいるんです?」

ため息をつきながら、声色も表情も。
出来る限りで呆れているのだと、表現してみせる君の困ったような表情。

「まぁ、いないだろうねぇ」

そんな姿でさえも、愛おしいと思う程なのだけれど。

「……とにかく。そういう甘い言葉は女性に囁くものでしょう」

「…そういうって?」

「可愛いだとか、好きだとか。そんな言葉を私に言って、一体何になるんです?」

「……」

「からかって反応を見て楽しもうとしているのでしょうけれど、そうは行きませんよ?」

まるで幼子を諭すように私の顔を覗き込む。

「わかりましたね?友雅殿」

あとほんの少し、私が動くだけで唇が触れ合いそうな程の、至近距離で。

「……まいったねぇ」

「?」

「鷹通には、かなわないよ」

こんな何気ない動作の一つひとつが、更に君への想いを強くしてしまうのだと、教えてやりたい。

「何がですか?」

「……何がだろうね」

「はい?」

「今の鷹通には、まだわからないよ」

けれど、こんな追いかけっこも悪くないと思えるのは、この想いの先にいるのが、鷹通、君だからなんだよ。

「……わかるわけありませんよ」

「だろうねぇ。分かっていればこんな事、言い合ってないだろうからね」

「…?」

「そう心配しなくても、きっと近いうちにイヤでも解るさ」

今度は私が、君を諭すように頭を撫で、見かけのイメージより細く柔らかな髪に指を通す。

さらりと流れた鷹通の髪と私の指の隙間から零れた、きっと昨晩焚いたであろう香の微かな残り香が、二人を包み込んだ。

「そのうち…ね」

奇麗に束ねられた、滑らかに地に向かう毛先を捕え、まるで女性の素肌に触れるように、想いをのせて口付ける。

「ねえ、鷹通」

退屈なはずの私の人生に、華を咲かせた君のその素肌に、いつか同じように口付けてあげよう。

「好きだよ」

「……」

「大好きだよ、鷹通」

そして、水のように止めどなく溢れ続ける、誰よりも深い私の想いを吸い上げて。

「…愛しているよ」

私の傍らで、誰よりも美しく、咲き誇りなさい。
 

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