テニス駄文

□お題SS
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暑さ故の寝苦しさに目を覚まし、ベランダに出た。
室内よりも空気が流れているせいだろうか。
暑いことに変わりはないが幾分体は涼を得ているように感じる。



【熱帯夜】



こんな夜は、彼の事を思い出す。

猛暑と呼ばれた夏に、クーラーの壊れた彼の部屋で、カーテンも窓も閉め切って、馬鹿みたいに体を貪り合った。

あの頃は互いにまだ若すぎて、二人だけの時間をその行為にばかり費やしていたように思う。

端から見れば、思春期特有の若気の至りと言われるのかも知れない。
ただ、欲しくて欲しくて仕方がなかった。
それは事実だ。
今更否定するつもりはない。

けれど、その気持ちはカンタンなものではなく、未来に対する不満がそうさせていたのは間違いない。

何があっても離れずにいられる自信も、守ってやれる力も無いのだと、幼いながらに理解していた。

互いを想う気持ちに比例するだけのものを持ち合わせてはいない非力な自分を、認めざるを得なかった。

だからこそ、繋がっていたかった。

全身であなたを求めているのだと。
これほどに必要としているのだとより強く伝える為に。


それが不要となった今では、懐かしく青臭い思い出だ。

「…全く。品の無い…」

ベッドに戻ると、すっかりと私の寝床を占領してタオルケットを蹴り避けて、ショートパンツ一枚で眠る恋人を見つめた。

こんな無防備で素の姿を目の当たりにしても、今の私は深い意味で彼に触れようとは思わない。

「暑いのなら自分のベッドに戻って下さいよ」

この熱帯夜にセミダブルとはいえ男二人が窮屈な思いをしながら眠るなんて、明らかに不自然で、しっとりと汗をにじませる彼の体を軽く揺すった。

「んぁー…暑っちぃ……」

「だから。自分のベッドに戻りなさいって。こんな暑い中ひっついて眠る必要なんてないでしょう?」

目をこすりながら当たり前のことを口にする姿に呆れながらそう促すと、彼は体を起こすことなく私の手首を掴んだ。

「イヤじゃ。一緒に寝る」

「何子供みたいな事言ってるんですか。我が儘言わないでくださいよ」

「…お前さん、エエ匂いがするんよ。じゃけん一人よりよう眠れる」

「…」

明かりが消えたままの暗い部屋の中、見えるはずのない私の顔色を感じとったのか彼は、掴んだままの手首を優しく引いた。

「おいで」

「おいでって…。そこ、私のベッドですよ?」

「固い事言わんの」

ため息をつきながらも悪い気のしない私は、誘われるがままにベッドに入る。

「―…あの頃と変わらない事もまだまだあるんですね」

「何じゃ?急に」

「いえ。独り言です」

「…すごい気になるんじゃけど?」

「気になります?」

「なるに決まっとる」

二人きりになると甘えたがるのはあの頃も今も変わらないだなんて言ったら、あなたはどんな顔をするのだろうか。

「一人で寝られるようになったら教えてあげますよ」

「……まるっきり子供扱いじゃな」

そんな少し意地悪な事を思いながら彼の額に汗で張り付く前髪をそっと梳いた。

ふてくされながらも、どこか嬉しそうなその顔に、私もつられて自然と笑みをこぼす。

変わったものは、年を経てわずかに大人びた外見と、私たちの中にある意識。

変わらないものは、互いを想う気持ち。

その二つが混ざり合った心地の良い環境で、私は眠る。

こんなに寝苦しい夜でも、気持ちが良いと感じられる、あなたの隣で。



*****


「熱帯夜」というより「同棲」ですよね…。
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