テニス駄文

□迷子
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付き合い始めて暫くは、柳生にとっては『共通の秘密を持つ親友』の域を出ることはなかった。
仁王の誘いにのって、キスを交わし、カラダも重ねた。
しかし決して強要されたわけでも無ければ、仁王に抱かれたかったわけでも無く、ただの純粋な好奇心を満たす為だけの行為に過ぎなかった。

いくらお堅い柳生といえどもセックスぐらいの知識はあった。
同性同士でそういった行為を行うことも知っていたが、本来子孫繁栄のために行われるその行為に、何も残せない者同士が何故そのような事を行うのかが不思議でならなかった彼にとって、自分がそれを体験出来る機会が与えられる等とは、ある意味チャンスでもあったのだ。

何に対しても学び身に着ける事が楽しいと思える柳生にとって、こんな人生で最初で最後の機会を逃すなど、ありえない話だった。
男に組み敷かれる屈辱感が無かったわけではなかったが、仁王にされるがまま身を委ねて客観的にその時を過ごしていれば良いと、その程度にしかこの行為には意味を見出せないでいた。

しかし、そこで柳生が得たものは、想像もしなかった快楽と、ぬくもり。
そして、今まで見た事もない、優しい仁王の姿だった。

あれから何度となく体を重ねたが、その度に柳生は、様々なことを身をもって知った。





「明日、ちゃんと着替え持って来いよ」

「言われなくても分っています」

もう何度も繰り返された仁王との帰宅途中。
別れ際に念を押すようにそう言われ、柳生はあっさりと返事を返した。

学校が終わり次第自宅に戻らず仁王の家に泊まるのはこれが初めてではないのだから、今更そのような事を言われたのが不思議だった。
ほんの些細な事だと思う。
けれど、何かが心痞えた様な不快感が、彼を捉えて離さない。
しかし柳生がそれを尋ねようにも仁王の後ろ姿はもう小さくなってしまっていた。


仁王に指示された通り、荷物を纏め家を出れば、昨日から続く蟠り以外は何時もと変わらない日常だった。
部活動に明け暮れた柳生たちにはあまり関係がなかったと言えばそこまでだが、授業数が短くなり皆が喜ぶ土曜日も中学生としてはこれが最後である事を除けば。

座席が窓際にある柳生は、帰り支度を整えながら、校庭に堂々と立つ桜の樹を眺めてほんの少しだけ、寂しさを味わう。
3年前、この学校に入学をし、あの桜の樹の下で集合写真を撮影した時には、自分がテニス部に入る事になるなど考えてもいなかった。

「柳生。準備は出来たんか?」

「ええ。今行きます」

そして、こんな風に誰かが自分を待ってくれる事になるとも、思ったことはなかった。



他愛の無い話をしながら横を並んで歩き、通いなれた仁王の家に着くと、彼に面影の似た母親が出迎えてくれた。

いつも礼儀正しい柳生に対して好感を抱いている仁王の母親にとって、彼の来訪は歓迎に値するものなのだ。

今日世話になる事に対しての礼を丁寧に行う柳生に対して早く来いと玄関から呼ぶ仁王に促されて彼は仁王の部屋に直行した。
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