テニス駄文

□outside
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柳生と会わなくなってから、もう数ヶ月になる。
当たり前のようにほぼ毎日を共に過ごし、時には口付けて、抱いて、温もりを感じて過ごしてきたというのに。

中学を卒業すると同時にその全てを失った。

本当に、本当に、心から好きだった。
今でも、彼の声が、表情が脳裏を掠めるだけで涙が滲む。

会いたい。
声が聴きたい。
抱き締めて、キスをしたい。

何度もそう思った。
そしてその度に胸を襲う痛みに身動きが取れずにうずくまり、自分の体を抱き締めた。
この悲しみと虚無感から救ってくれる腕はどこにもないと分かっているから、そうするより他に無かった。

幸村や真田から柳生が今、テニスを諦めざるを得ないほど勉学に励まなければならず、予備校通いの忙しい日々を送っていると聞いていた。

きっと彼の事だから無理をしているに違いない。
そう思うと、今更自分の言葉など彼に負担になるだけだと分かっていても、一言、無理をするなとだけでも伝えたかった。
けれどそれが許されない事だとも理解出来ていたから、何も出来なかった。

ケータイを開き、もう二度と連絡は取らないと決めたにも関わらず、どうしても消すことの出来ないアドレス帳の中の柳生の名前を見るだけで涙する自分に、そんな事が出来るはずがなかった。

ましてや自分は、あんな風に彼の想いを裏切ったのだ。
そんな自分に対してもきっと柳生は、返事をしてくれるだろう。
優しくて、真面目すぎる彼だから、無理をしてでも、きっと。

そう思えば尚更だった。
以前から小さな頃から医師になりたかったのだと話していた柳生が今、それに向かって歩み始めたのだ。
そんな大切な時期に自分の存在は邪魔にしかならない。

それがどんなに悲しくても、目の前に立ちはだかる現実な抗う術など、自分にはない。

「柳生…」

まさかこんな形で、物理的な距離まで離れてしまう事になるなんて、思いもしなかった。
それも、こんなにも早く、呆気なく。

「これで…少しはお前さんの事、忘れられるんじゃろうか…」

もう、この街で偶然すれ違うことすら叶わなくなるのだ。

些細な願いや希望を抱く事が無駄だと実感出来てしまえば、こんな風にいつまでも自分から捨てたはずの想いに未練がましくしがみつく事も無くなるかも知れない。
仁王はそう思う。

忘れたいと言ったのは間違いなく自分なのに、柳生にあんな苦しそうな顔をさせておいて、結局自分は何も変われていない現状が惨めな程に情けない。

「最後の最後まで、情けない男でごめん…」

別れても、会えなくても、未だに好きで、どうしようもなくて。
けれどその想いに、柳生に相応しくない自分で。

「ごめんな…。お前さんの人生の、汚点にしか…なれなくて…」

きっとこれは、雁字搦めの心を解放する為に神が与えてくれた最後のチャンスだと思いながらも仁王は、涙を零した。

散々抱き合ったベッドの上で横になった体を小さく丸めて、抱き締めながら。
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