Baby Birds-小さな鳥-

□才能のない少年達
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次の日、零夏は教室の一番前の席に向う
名簿で決められた席順は不幸な事に零夏を一番前の席にした
荷物を机の横にあるフックに引っ掛ける
座る為に椅子をひいたが、ふと顔を上げる
誰かを探すかのようにきょろきょろと教室全体を見渡す零夏



「いない、な」



昨日の勝負を思い出す
自信に満ちた小さな少年の笑顔
同じ一年ならもしかしたら同じクラスかもしれない、と淡い期待を抱いていた零夏だったがそううまくいかない
まだ教室に全員がいるわけではないが見当たらない
このクラスではない、と直感がそういっている



「誰か探してるの?」



ひいたままだった椅子をそのままにして立っていた零夏に誰かが話しかける
振り向けば、昨日の空に似たサイズの女の子
零夏と同じクラスなのだろう
だが、零夏は彼女の名前を知らないし、顔すら覚えていない
というより、彼女以外のクラスメートの名前も顔もほとんど覚えていない
彼女の質問に答えるよりも先に、この人の名前はなんだ、という疑問が頭を支配する



「あ、ごめん自己紹介がまだだったね
 私は七尾奈緒、よろしくね花園さん」



零夏の気持ちを汲み取り、律儀に自己紹介をする奈緒
それなら自分も名前を言った方がいいか、と思った零夏だったがまたまた疑問が浮かび上がる



「あれ、私の名前……」



入学式で名前を呼ばれる以外に他の人に自分の名前を知られることがあったのは昨日の体育館での出来事のみ
しかしそこにクラスメートなんていなかった
座席指定の時は出席番号で指示されたため名前は出なかった
なのにどうして確信して零夏の名前を言えたのだろうか



「昨日休んでたでしょ?
 毎回先生が名前呼んでたんだよ」

「まじですか」



そうか、と思う
高校になれば教科ごとに先生は違う
となれば、教科ごとに出席を取られるわけで
初日早々零夏は欠席の人という印象ができたことだろう

だが、幸いのことに休んだのは零夏だけではないらしい
夏目くんとやらも昨日はこなかったとか
しかも彼の休んでいる理由は停学らしい
そのお陰で零夏の印象は多少掻き消されているだろう
そもそも授業初日に停学で欠席なんてクラスでの彼のイメージはさぞ悪かろう



「あ、でもね、先生たち苗字でしか言わなかったから花園さんの下の名前聞いても良いかな?」

「花園零夏だよ、よろしく
 一個上に兄がいるから下の名前で呼んで欲しいな」

「そうなんだ、じゃあ零夏ちゃんって呼ぶね」



私のことも下の名前で呼んでね、と奈緒は微笑む
小さいからだろうか
凄く愛くるしさがある
零夏は遠慮なく奈緒と呼ぶことにした



「で、零夏ちゃんは誰か探してたの?」



余程気になっていたのだろうか
最初の奈緒の質問に戻る



「そうそう、奈緒にお似合いサイズのちっちゃな男の子をね」

「し、身長気にしてるのに」

「そうなの?ちっちゃくて可愛いと思うけど?」



さらりと零夏が言えば奈緒は頬を赤らめる
怒っているのか照れているのか、いや両方か
ごめんごめん、と零夏は奈緒の頭を撫でる



「あ、そういえばちっちゃい男の子なら入学式のとき隣に並んでた男の子もちっちゃかったなぁ」

「あぁ、あの意味不明に身長順だったやつか」



ということは隣のクラスにいる可能性が高いか




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