今ここから…
□転入生
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「浦原商店」という看板を掲げた玄関前に二人の子供がいた
一人はボールを握っている高校生ぐらいの女の子
もう一人は女の子から少し離れた所にいる箒を持った小学生ぐらいの少年、ジン太
「よっしゃかかってこい!次こそ智佳の球打ち返してやる!」
やる気満々のジン太は箒を構えた
どうやら箒は野球のバット代わりらしい
智佳も手加減をするつもりは無いようで、腕まくりをして肩を慣らしている
「よし、いくよジン太!」
「智佳ちゃん、浦原さんが呼んでる」
大きく振りかぶり投げようとしたが、あるものによって阻まれた
黒髪を二つに結んだ女の子は口元に手をやりもじもじとしている
「はぁ!?何言ってんだ雨、試合再開するぞ智佳!」
試合を止められたのが嫌だったのか、少し怒鳴り声でジン太は言った
雨と呼ばれた女の子はビクリと肩を揺らして怯えているように見える
「でも、早く来てって……」
それでも使命感からか雨は反論する
雨の言っていることはいつも正論なのだがジン太が納得するはずもなく食らいついてきた
「うるせぇ!試合終わってから、ぬふぁ!?」
そしてこれまたいつものことなのだが、タイミングよく現れたエプロンを着た大男がジン太の服の襟を掴み持ち上げる
地面から離れた足をジタバタとさせてもがくジン太だが、解放される気配はない
「あ、テッサイさんおはよう!」
「おはようございます、智佳殿」
智佳はジン太がテッサイに捕まえられているのに見慣れているので構わず挨拶をする
テッサイと呼ばれた男も捕まえたジン太そっちのけで丁寧に挨拶を返した
「智佳殿、浦原殿が自室で待っています」
「はーい」
雨に続いてテッサイにも促された智佳は素直に店へと姿を消した
残されたのはジン太を今だに持ち上げているテッサイとどうにか解放されようと必死なジン太、そしてジン太が落とした箒を拾った雨
「くそー!またあいつの勝ち逃げかよ!」
「それよりジン太殿……」
どうやら先程までの勝負は全て智佳の勝ちだったらしく、負けたままのジン太は不服そうだ
そんなジン太の顔と自分の顔を近づけるテッサイ
「な、何だよ……」
光に反射した眼鏡が妙に不気味で無意識のうちにジン太の声が吃る
そんな二人を遠めに見ている雨は止めようとしない
「掃除はしていましたか?」
「…あ……」
一緒ピタリと顔が固まったジン太は見る見るうちに青ざめていく
野球に夢中で掃除なんて頭の中から消えていたのだ
「…えっと、その、」
上手い言い訳を必死に考えて見るが思いつかない
チラリと雨の方を見ても掃き掃除を熱心にしているだけでこちらを見る気配もない
「やっていなかったみたいですね?」
この後近所迷惑な程の絶叫が木霊したとか、していないとか
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