今ここから…

□転入生
2ページ/4ページ




一方、その頃智佳はジン太がテッサイの餌食になってるのも知らず、ある人の自室前で首を傾げていた
ある人というのは言わずもがな智佳を呼んだ張本人、浦原喜助という男
喜助はこの店の店長であり智佳の父親でもある
改まって何かを言われるなんて智佳には心当たりがない

しかし考えてもしっくりくる答えが見つからず、智佳は諦めて襖に手をかけた



「いやー、待ってましたよ」



少なからず緊張していたにも関わらず、襖を開けると同時に部屋から体の力が一気に抜けてしまうぐらいの怠けた声がする
緊張した自分が馬鹿だったと心の中でため息をつく智佳



「で、用って何?喜助」

「お父さんの名前を呼び捨てにしないで下さいよ」



いつもの調子を崩さず言う喜助
喜助の言う通り智佳は喜助をいつも呼び捨てで呼んでいる
喜助としてはお父さんと呼んで欲しいし、何より呼び捨てというのは珍しい
しかし何度言っても智佳の呼び捨ては変わらなかった



「……嫌だ」

「ま、いいですけど、頼みがあるんですよ」

「頼み?」



今日も喜助が先に折れて、本題に入る
喜助の頼みなんてよっぽどのことなんだろうかと首を傾げる智佳を真剣な表情で見つめる喜助
喜助が真剣な時は大抵が重要なことだ
それを何より知っている智佳もつられて真剣な表情に変わる



「智佳サンにある死神を監視してもらいたいんですよ」

「死神を?なんで私がそんなことを?」



ますます首を傾げる智佳

死神とは簡単に言えば幽霊と人間の世界のバランスを保つために存在するもの
智佳もその一人である
(死神は普段なら普通の人間には見えない霊体だが、今の智佳は義骸という仮の肉体で生活している)

しかし他の死神の手助けをしてくれと頼まれたのは今日が初めてだった



「その死神、強い霊力を持つ人間に死神の力を渡したそうなんですよ
監視してほしいのはその二人なんです
死神は奪われた力は回復していないし、人間は死神になったことなんてないですし
ピンチのときに手助けをして欲しいんです

何も言わずにお願いしますよ」



帽子と扇子の隙間からちらっと智佳を見遣る喜助
試すような仕草に気づいた智佳は諦めたように肩の力を抜いた



「いいよ」



呆れを含んだため息とともに吐き出された言葉は喜助にとって良い返事だった



「じゃあ明日から早速高校に通ってもらいますね」

「えっ!高校に行くの!?」



浦原の言葉にこれでもかというほど反応する智佳
身を乗り出してまで聞いてきた智佳の頭を撫で「はい」と浦原は微笑む



「やった!前から行きたかったんだよね学校!」

「そういうと思いました」

「ありがとう喜助!」



死神である智佳は学校に通わなくていいし、そもそも人間と成長スピードが異なるため通えなかった
(まぁ、道具を駆使すればどうにかなるだろうが)

学校に行かないどころか極力姿を見られないためにひっそりと暮らしていた
そんな智佳にとって『学校に行く』ということは夢のような話だ

嬉しそうに笑う智佳につられて喜助も優しい笑みを見せる

途端にその表情とは別の何か重要なことを思い出したかのような顔つきになった



「ああ、それと二人には監視していることは隠しておいてください」

「うん?」



喜助の言葉の意図が分からない智佳は曖昧な返事をする



「とりあえず黙って見守ってピンチのときは見つからない程度に助けろ、てこと?」

「ええ、流石智佳サン理解がお早い」

「了解」



これからのことに胸を膨らませる智佳
この時の智佳は監視対象である二人と接触していくうちに大きなある出来事に関わってしまうなんて思いもしなかった




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ