短編小説 謎

□優しい嘘
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音は嘘をつかない。
それは絶対だと私は確信している。
今、視力を失ってこそ本当にそう思う。

「おいーッス!」
 豪快に言うのは大学の級友だ。
 入院している私を見舞いに来てくれる珍しい男子である。
「他の患者さんもいるんだから静かにして」
 私は彼が嫌いでは無い。
 そっと優しく一言そう言っておく。
「おうおう。分かってるぜ!」
 全く分かっていない彼に、分かっていないでしょ。と一言苦笑いしながらたしなめる。
「で?今日は何か良いことあった?」
「ん〜。あぁ、大学でな、お前が嫌がってた教師いるだろ?」
「教師?講師とかでは無くて?」
「まぁ、どうだっていいだろ。英語のアイツ」
「…あぁ」
「アイツが風邪ひいちまってさぁー」
「へぇ?」
「おかげで俺ら無料単位☆」
「それって良いことなのかしら」
「さぁな」
 私がクスクスと笑うと彼は豪快に笑う。
 たわいもない話をしていると時間があっという間に過ぎる。
 と言っても私にはその時間が分からないけれど。
「じゃぁ、時間も時間だから俺、帰るな」
「ええ。また今度いらしてね」
「おう。じゃな!」


それから2日後。
凄い暴風雨が私たちの町を襲った。
というのも音がそう聞こえたから。

「あちゃぁ。全身びっしょりになっちゃった」
 コレは私の姉の声。
 おっとりとした性格で今はこれでも立派にOLをしているらしい。
「全く、バカね。姉さんは」
「まぁ!失礼な子」
「こんな日にお見舞いに来てくれなくても良いのに」
「貴方の顔が見たかったからこんな天気でも来てしまったのよ」
 それから笑い合って私たちはあれこれ話をした。
 姉は忙しくて久しぶりに話せて嬉しかったそうだ。
「でも、大丈夫?声が少し変よ」
「風邪を引いてしまったのよ」
「いつから?」
「それが結構前からなの。長引いて困っちゃう」
「ついでに下によってお薬でも頂いてきなさいな」
「ええ。そうするわ」
 そう言って姉は病室を出た。
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