短編小説 謎

□ホンニイタズラヲシテハイケマセン
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学校の図書館の静かな放課後。
図書委員の女学生がやる気があるのかないのか分からないボーっとした虚ろな目でカウンターに座って読書をしている。
返却ボックスの中に一冊の本が入った。
彼女は気のない返事で、有り難う御座いました。と、この図書館の静かさを崩さないような細くて機械的な高い声で言った。
図書館は空調のボーっという機械音だけで立ちこめている。
彼女は読んでいた本にしおりを入れてから音無くゆっくりとキャスター付きの椅子から立ち上がると返却ボックスから本を取りだして本棚へ向かった。背表紙を確認してその棚まで行く途中、中をぱらぱらとめくっていく。すると、中から“ホンニイタズラヲシテハイケマセン”の一言書かれた紙が落ちた。
彼女はこの前の借り主で、こんな紙が入っていないことを知っている。と、したら。コレはさっきの人が入れたに違いない。
こんな紙を入れている方がよっぽどいたずらをしているではないか!
彼女はそう心の中で叫ぶと、自分のブレザーの中からボールペンを一本取り出すと、“貴方こそよっぽどタチの悪い悪戯をしているではありませんか”と勢いよく書いて本に挟むと正しい本棚に入れた。
次の週。
彼女は気になってあの本を見に行った。すると、“でも、返事してるから共犯じゃね?”の一言が書き加えられていた。でも、明らかに書き方や、ペンまで違っている。彼女は“始めた方が悪いんです”とまた返事を書いた。
それから2日後。
放課後、部活が無かったので図書館に行き、本を見るとこんどは“俺、お腹減った”“保健室サイコー”“由美ちゃんがお菓子めっちゃ持ってるよ”と全く会話の成り立ってない3つの文が好きなところに好きな大きさで自由に書いてあった。彼女は不思議な胸の喜びと呆れと色々な気持ちが混ざった思いをのせて“皆さん、ここは図書館ですよ。お静かに”とまるでその紙の上の文字が音声を発しているかのように書いた。

 「大学、危なそうだな。他の大学にしないか?」
 彼女は職員室に呼び出されて素直に行くと、いきなり担任から言われた。
 そんなに悪いというわけではない。むしろ、彼女は良くできた方だ。しかし、彼女の希望の中には一つランクを落とした大学は皆無。みな同じくらいのランクの大学を志望していたからだ。
「今からでも遅くはない。どうだ?少し、考え直した方が良いんじゃないか?」
 彼女は黙っていた。
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