短編小説 謎

□ホンニイタズラヲシテハイケマセン
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“大学、ヤバそうなんだ”
彼女があの本のあの紙にそんな相談を書き込んだ頃にはもう紙の上は文字でごった返していた。
彼女が来ない間にもいろんな人が見ては書き込み、好き勝手にしていくものだから、文字が大きすぎたり、その中にもの凄く小さな文字でたわいもないことを書いていく人も出てきて散乱としていた。文字の形は様々。不思議と色は全く同じになることは無かった。しかし、その中にはなんだか誰にも言えない秘密を持った一種の仲間意識があるのかないのか、誰もが誰かの文章に返事をしていた。
数日して見れば、“受かる大学無いヤツに比べれば平気だ!”“チョコ食べれば絶対受かる”“っていうか3年生も書き込んでいたんだ”と、何かしらの返事が返ってきて彼女は嬉しかった。彼女は笑顔がだらしなく出てしまうのを必死に隠しながら図書館を出た。
それから、必死に彼女は勉強した。勉強して勉強して勉強して勉強した。
彼女は、大学に受かった。
その紙に報告をすると、彼女が他の棚を見に行って紙の挟まれた本から目を離した時に書かれたのか、さっそく返事が返ってきていた。彼女はもう一言書き込んだ。“不思議だね。私は一回も誰とも会わなかった。けど、なんか仲間意識が。”
自主登校になる前の最後の日。彼女が見ると、その本のその紙はついに裏まで行っていた。そこは相変わらず散らかっていたけど、前にもまして強い結びつきがあるような感じがした。“留年しそうー”“Yes, wii can”“うわ。コイツ時代の波に乗ろうとしてスペル間違ってるよ”“や、これかけてるんじゃない?”“ん〜。どうでしょう”“いえす、うぃーかーん!!!!!”
“ありがとう。紙の提供者と、図書館利用者へ。”
数日して、彼女が廊下を歩いているとすれ違った一人の学生があの本を持っていた。彼女は学生と目が合うと優しく微笑んだ。
学生は納得した顔をして本をパラパラとめくっていると本から紙が何枚か落ちてきた。学生は持っていたホチキスで端をとめると、“コノカミヲタイセツニシナクテハイケマセン”と誰かと同じ書き方、ペンで書いた。
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