短編小説 白

□初恋ーその後
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「いらっしゃいませー。
 冷たいお飲み物はいかがですか?
 お酒も各種そろってまーす!」

なぁんて、その子が水着姿で売上を伸ばして、且つスピーディーにこなしてくれたから。
最終日もすぐにバイトは終わった。

「お疲れさん。
 はい、二人とも一本ずつどうぞ。
 バイト代は月末に振り込んどくからねー」

そう言って、雇い主が俺たちに終わりを告げた後。
全くバイト中も必要事項以外は全く話さなかったその子が初めて俺に話しかけてきた。

「何でさ、“私のこと、覚えている?”ってミンナ聞くんだろうね?」

プールで楽しそうに遊んでいるカップルを見ながらその子は言った。

「私、そんなに記憶力悪くみえるかしら」

俺もぼーっとプールを見ながら言った。

「覚えていて欲しいのが強すぎて
 不安になるから、かな」

声が震えていないか、心配だった。

「そうかな。
 うん。そうだね」

その子は一人で納得していた。
相変わらず、その子の頭の中はきっと高速回転しているんだと思う。
ペットボトルについた水滴が水たまりを作っている。
少し、時間がかかったから頭の整理をしているんだと思う。

「私のこと、覚えている?」

その子は初めて俺を見て話した。
まっすぐなその子独特な間で。
俺は、チキンだから俯いて言った。

「覚えてるよ」

俺はその子をまだ好きなのかもしれない。
その子は勢いよくプールへとダイブした。
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