◆突発◆
□突発
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ナルトが猫を飼っているらしい。
…というか、サスケがそんな事を言っていたらしいと久々に忍者学校を訪ねてきたサクラが言っていたのだ。
別の猫を飼うのが悪いと言いたいわけじゃない。
ただちょっと通りがかった猫にミルクを与えるぐらいなら良い。
でもちゃんと飼うとなると、色々時になる部分もある。
例えば、躾やら、アパートの管理人の許可やら…。
もっともそんなのはただの口実で、ただ単に、久しく会っていないナルトに俺自身が会いたかったのかもしれないけれど。
『Question・上』
「あ、イルカ先生いらっしゃい!ってばよ」
「おじゃまします」
久々に入ったナルトの部屋は相変わらず散かっていたけれど、忍者学校時代と比べればいくらかマシになっていた。
下忍になって落ち着いた。
……というよりも、最近はナルト達を担当してくれているカカシ上忍も訊ねて来るらしいから、だからかもしれない。
彼の指導の賜物かと思えば、何だかちょっと淋しかったり。
いやいや、ここはナルトの成長を喜んであげるべき所であって、自分がそうしてあげられなかった事を悲しむ所でも、悔しがる所でもない。
そうだろう、うみのイルカ…!
って、ナニ自分に言い聞かせてるんだか。
「イルカ先生、コーヒーに砂糖入れる?」
ナルトがキッチンスペースの方から聞いてくる。
コーヒーの香ばしい香りが鼻をくすぐって、ちゃんとお客に飲み物を勧められすようになったんだなぁ…なんて喜びながら、それもカカシ上忍が…と思うとまた胸に棘が刺さる。
「ああ、少し頼む。」
「了解だってばよ」
別に自分がずっとナルトの面倒を見るんだ…なんて思ってたわけじゃない。
いつかは自分の手を離れて行くんだって分かっていた。
だけどそれがこんなにもあっさりと簡単に突然に訪れるとは思っていなかったというか、ナルトももう少し俺との別れを寂しがってくれても良いのにと思ったと言うか…
俺ってこんなに女々しい奴だったのか?
「はい、イルカ先生。コーヒーだってばよ。入れんの、そんなに上手くねぇけど…」
ナルトは少し申し訳なさそうに、でも手馴れた手つきで俺にコーヒーを渡した。
でもこんなにすっかり変わってしまわれるっていうのも、それはそれで心配だったりする。もしかしたらカカシ上忍がやけに厳しかったりするんじゃないか…とかな。
だから成長したって言うより、成長せざるを得なかった?
俺は甘いって分かってるし、多少は厳しくしなきゃいけない事もあるんだろう。第一、ナルトはもう忍者学校生じゃない。
俺の管轄外なのだから…
こんなのだって心配し過ぎだって分かってる。
だけど、心配になるのも事実。
「な、イルカ先生!コーヒーの味どう?!」
さっきからじっと俺を見てたと思ったら、口を付けた途端ナルトが聞いてきた。
何かと思っていたら、そういう事か。
「どうって、美味いよ?」
「かなり?」
「…なんだそりゃ?」
「………カカシ先生は、……そんな風に美味いって言わないからさ」
またチクリと胸が痛む。
「上達して、美味いって言わせてやりたい…かな、って」
ナルトがちょっと照れたような、困ったような笑みを浮かべて言った。
何だ、客に飲み物出せるようになったんじゃなくてカカシ上忍に飲ませるための練習台か…なんて卑屈になるつもりはないけれど。
ちなみに、このコーヒーは特別不味いわけでもない。
とは言え、俺は舌が肥えてるわけでもないし、“通”の人みたいに旨みだのコクだのなんて分からない。でも言ってみれば、ごく普通のコーヒーなのだ。
お世辞でって言うのもおかしいけれど、カカシ上忍だって『おいしい』って一言ぐらい言ってやれば良いのに。
それともよっぽどコーヒーにこだわりのある人?
でも、ナルトが入れてるんだから、ナルトなりの及第点というのを付けてくれても…
ああ、でも、それじゃナルトの為にならないのか??
「イルカ先生ご飯食べてく?泊まってく?」
ナルトがニコニコしながら聞いてくる。
こうしてるとやっぱりまだ忍者学校の頃とそんなに変わってないな…なんてちょっと嬉しい。
少しは背が伸びたかもしれないけど、まだ俺の腰に手を回すのがちょうど良いくらいの背だ。頭を撫でてやれば、柔らかい金糸の髪が手に心地良い。
まだ、子供だ。
まだ、可愛い子供。
まだ、可愛いナルトのままで良いのに…
なんて思ってしまいそう。
「泊まって行くも何も、お前んち布団一組しかねぇじゃねぇか。」
「一緒に寝れば良いってばよ!」
「いや、狭すぎるだろ。どう考えても」
「そうかなぁ?」
そんなに俺を引き止めたいのかと思えばちょっと嬉しくもあったり。
「……俺がお前を赤ちゃんみたいに抱っこして寝て良いなら、一緒に寝てやっても良いけどな」
「我慢するってば!」
嫌がるかな〜と思っていったのに、ナルトはあっさり即答した。
まだまだ子供だって事なのか、それ程俺を引き止めたいという事なのか。どっちにしても、俺にとっては嬉しいことには変わりなくて。
まだ、お前は子供で良いよ。
俺に面倒見させてよ。
「じゃあ、仕方ない。泊まってってやるよ」
「よっしゃぁ!じゃあ、俺ってば、俺ってば、風呂沸かすし!」
「はいはい、俺が夕飯な」
ナルトは満面の笑みを浮かべると、すぐさま風呂場の方へと走っていった。
その背を可愛いな…と思いながら眺めていたら、
ガタン
と、ベランダの方から音がした。そんなに大きな音でもなかったし、もしかしたら例の猫が来たのかな?…と思ってベランダの方を覗き込む。
そしてそこで、俺は固まった。
だってそこにはありえない光景があったのだ。
いや、あり得る事ではあるんだけど、信じがたいというか、俺の目の前に現れるのが不自然というか。
とにかく、なんだろう?
俺には不思議なものに見えたのだ。
そこには、例の銀色の猫……
らしき猫を抱えたカカシ上忍が立っていた。
→Question・下
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08.06.03