2.
――疑似恋愛、を利用する、だと?
思わずオレはクリスの水晶のような瞳を見つめる。
真っ直ぐな視線に逆に、気圧された。
「どういう意味だよ、あれはゲームみたいなもんなんだろ」
「ゲームだからよ」
「はあ……?」
理解できない。
疑似恋愛強制執行条文。
あれは所詮恋愛ごっこ、なのにクリスはオレとシルバーでそれをやれというのか。
オレの気持ちはごっこではなくて、多分本当の気持ちだと知っていながら。
「だから、あの条文を利用してあなた達が本当の恋人になればいいのよ」
「……オレにあいつを落とせっつーのか?」
「そう」
オレはまじまじとクリスを見つめた。
こいつ、ほんとに良い奴だよな。
男が男を好きになるっていう時点で大概は気色悪くなるだろうに、応援してくれて、それどころか、オレの想いが遂げられるように真剣に思案してくれるとか、ほんとに良い奴すぎる。
だけど、その提案を呑めるかどうかは別の問題だ。
「悪ぃけど、無理だ」
「そんなのやってみないと分からないじゃない!」
「落とせるかどうかじゃねえ」
「え…?」
「告白(い)うつもりねえんだ、オレ」
意味が分からない、というようにクリスの瞳が瞬いた。
クリスが疑問に思うのももっともだ。
好きだから、付き合いたいと思う。
その為に告白して、自分の気持ちを伝えるのは、相手にも、自分のことを好きになってほしいからだ。
平たく言えば、そういうことだ。
確かにその通りだと、オレも思う。
だけど、その好きになった奴が男で、かつダチ公だったら?
向こうにとってオレはダチ公で、それなりに大事に思ってもらってるのに。
こっちからその関係をぶち壊すわけには、いかねぇだろう。
「まあ、そういうこった」
「ゴールド…」
納得のいってない顔をしているクリスの肩を叩いて、階段を降りる。
いや、降りようとした。
「やっぱりここにいたのか!捜したよ、ゴー、クリス」
「え、レッド先輩!?」
ひょっこり顔を出したのは、学年が一つ上のレッド先輩だった。
今日もいつもの如く、重力に逆らう髪と先輩独特の不思議な雰囲気(天然とも言う)を醸し出しいた。
「どうしたんスか先輩?」
「うん、ちょっと二人に用があるんだ。生徒会室に来てくれる?」
オレはクリスと顔を見合わせた。
なぜなら、レッド先輩がオレらに用があるから生徒会室に来い、という時はたいていろくな用事ではないのだ。
グリーン先輩やイエロー先輩が言いに来た場合は、逃げられる可能性はまだあるのだが、レッド、ブルー先輩の場合は確実に連行されるのが今までの経験だ。
――万事休す。
「レッド先輩が来たってことは、結構面倒だけどやらなきゃいけない案件ってことですよね…」
クリスのぼやきに、レッド先輩はにこっと感じのいい笑みを浮かべた。
「今回はかなり大変だと思うよ」
――嫌な予感しか、しなかった。
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