3.
「シルバーとゴーで疑似恋愛の手本をやってほしいんだ。あ、手本っていうかデモンストレーション?って言うのかな」
――オレの嫌な予感は命中した。
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時は三分前に戻る。
「……なんでお前がここにいんだよ」
「姉さんに呼ばれたからだ」
素っ気なくシルバーが答えた。
そう、シルバーだ。
クリスと共に連れて行かれた生徒会室には、今一番会いたくなかったシルバーがいたのだ。
まあ奴だけでなく、グリーン先輩とブルー先輩もいたんだけど。
ちなみにイエロー先輩は所用があって違う場所にいるらしい。
「それで一体どうしたんスか?」
一番奥の机に座り直し、机の中をがさごそ探っているレッド先輩に質問した。
そんな様子の先輩を見て、グリーン先輩が仕方なさそうに答えてくれた。
「今朝見てくれたと思うが、この…疑似恋愛強制執行条文についてお前たちに頼みたいことがある」
「……なんスか?」
どうせろくな事じゃねぇのに。
それだけは、確実に言える。
――逆に言えばそれ以外の事は全く分かんねえんだけども。
目当ての書類を見つけたレッド先輩は、それを机のど真ん中に置いて、オレ達――いやオレを見据えた。
そして、冒頭に戻る。
「シルバーとゴーで疑似恋愛の手本をやってほしいんだ。あ、手本っていうかデモンストレーション?って言うのかな」
意味が、分からなかった。
えっと……?
誰と誰が疑似恋愛の手本をするって?
シルバーとゴー?
っていうことはつまりシルバーとオレだ。
…が、疑似恋愛?
「はあああああ!?!?」
意味分かんねえ!
いや、理屈は分かるけども!
一体何をどう考えたらそんなおかしな提案になるんだよ…?
するとブルー先輩がにっこり親切に説明を補足してくれた。
「ほら、いきなりこんな意味不明な条文が施行されたら誰だって困るでしょ?だから具体的な例が必要な訳よ」
「だっだからってなんでオレとコイツなんスか!?」
訳が分かんねえ!
だってオレとシルバーはいがみ合う事で有名な仲なんだぞ?
クリスとオレとか、クリスとシルバーとかならよく分かるけど!
横を見ると、クリスは何やら考え込んでいて、シルバーのヤローはいつもの無愛想な表情だった。
……こいつら、何?
特にシルバー、てめえもっと動揺しろよ!
理解に苦しむオレに、ブルー先輩は最高級な笑顔を艶やかに咲かせた。
「だって、インパクトあるでしょ?元気でうざったいけど憎めない人気者のゴールドにクールで美形で人気絶頂のシルバー。女子の歓声の的よ」
「いやいやいやいや色々おかしいっスよ先輩!」
「あら、なんで?」
「だって目的はデモンストレーションなんスよね女子の歓声の的になるのが目的じゃないっしょ?っていうかレッド先輩何頷いてんスかしかもグリーン先輩も微かーに頷いてますよね?」
その上シルバーは未だに驚いた素振りすら見せねぇし、クリスに至ってはなるほど、と手を叩いている。
ここにツッコミ要員いねぇのかよ!
グリーン先輩とシルバーはツッコミ派だと思ってたのに。
軽く裏切られた気分だ。
と、レッド先輩が高らかに手を叩いた。
「ともかく、シルバーとゴーにやってもらうからねっていう話なんだ。いけるよね?」
「……いけるも何も…」
ちらりと隣のシルバーを盗み見、視線をレッド先輩に戻した。
「選択権、オレ達にないっスよね」
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