1.











多分、おそらく、きっと、いや多分、オレはシルバーが好きなんだと思う。

なんで好きになったんだとか、あんな奴のどこが良かったんだとかは分かんねえ。
分かんねえけど、好きになってしまったんだ。


** **


屋上のドアが凄まじい音を立てて開けられた。
その轟音に体がびくりと反応する。

オレ、南京錠かけたはずだよな…?
すると扉が開けられた時の反動のせいか、歪な形に歪んだ南京錠が転がってきた。

……まじかよ。

こんな芸等が出来るのは、あいつしかいねえ。


「こらあなた達!」


――クリスだ。
あいつの脚力は脅威的におかしい。
あんなのに蹴られたらほんとにあの世往きだ。


「また授業サボるつもりね!?」

「クリス、落ち着け!」

「あなたが落ち着きなさい!ゴールド」

「……二人とも落ち着け」


平静な声の仲裁が入った。
シルバーだ。
あいつは壁にもたれかかったまま、ふわりと欠伸をした。
……あいつ、恐怖とか感じねえわけ?
クリスの蹴りは、南京錠を砕くのに!
なんでそんなに冷静なんだ。
あ、とクリスが思い出したように声をあげた。


「シルバー、今教室にブルー先輩が来てるわ。行かなくていいの?」

「――行く」


目にも止まらぬ速さで、シルバーは屋上を出て行った。
……まじかよ。
あいつもチート性能持ちなのか。
ちょっと複雑な気分だ。


「……お前、シルバーの扱い上手くなったんじゃねー?」

「そうかしら……ほら、あなたも行くわよ」

「しゃあねーな……」


無意識ってとこがクリスの怖いとこだよな。
渋々承諾し、立ち上がってケツについた砂埃を払い落とす。
先ほど破壊された扉を通過して、階段を降りる。
日差しが暖かかった屋上にいたせいか、校舎内は少し寒く感じた。


「ねえゴールド」


階段を降りるのに併せて、一足先行くクリスの頭が揺れる。


「あ?」

「……ゴールドってシルバーのこと好き、よね?」

「はあ?」


足が止まる。
突拍子もない質問に、我ながら間抜けな声が出た。
クリスが振り仰いでオレを見た。
その目は、からかう隙が無いほど真面目というか純粋だった。


「……それは、どーいう?」

「え……シルバー愛してるぜっ!って方じゃない?」

「……………………」

「ゴールド?」


やっぱりこいつにはかなう気がしねえ。
オレは今日屋上に行ったことを心の底から後悔した。


「……オレってそんなに分かりやすい…?」

「んー……普通のクラスメートは気づかないと思う」


普通のクラスメートって…。
じゃあ気付いたクリスは、普通のクラスメートじゃねえってことかよ。
……ああ、でもそうかもしれねぇ。
確かにクリスは、飾らないでしゃべれるやつらの一人だ。


「……シルバー、気づいてっかな」


だが、その論法で行くとシルバーもオレの気持ちに気づいてることになるだろうが。
それは、まずい。まずすぎる。


「…気づいてない、と思うわ。だってシルバー、勘は鋭いけど恋愛事には興味ないみたいだし」

「……まあ、確かにな。何せバレンタインも理解しとなかったヤローだしなぁ」


再び階段を降り始め、オレはクリスの横を通り過ぎた。


「ねえゴールド」


クリスを振り仰ぐと、彼女の透き通った瞳に、見竦められた。


「?」

「疑似恋愛、利用しない?」



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