1.
多分、おそらく、きっと、いや多分、オレはシルバーが好きなんだと思う。
なんで好きになったんだとか、あんな奴のどこが良かったんだとかは分かんねえ。
分かんねえけど、好きになってしまったんだ。
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屋上のドアが凄まじい音を立てて開けられた。
その轟音に体がびくりと反応する。
オレ、南京錠かけたはずだよな…?
すると扉が開けられた時の反動のせいか、歪な形に歪んだ南京錠が転がってきた。
……まじかよ。
こんな芸等が出来るのは、あいつしかいねえ。
「こらあなた達!」
――クリスだ。
あいつの脚力は脅威的におかしい。
あんなのに蹴られたらほんとにあの世往きだ。
「また授業サボるつもりね!?」
「クリス、落ち着け!」
「あなたが落ち着きなさい!ゴールド」
「……二人とも落ち着け」
平静な声の仲裁が入った。
シルバーだ。
あいつは壁にもたれかかったまま、ふわりと欠伸をした。
……あいつ、恐怖とか感じねえわけ?
クリスの蹴りは、南京錠を砕くのに!
なんでそんなに冷静なんだ。
あ、とクリスが思い出したように声をあげた。
「シルバー、今教室にブルー先輩が来てるわ。行かなくていいの?」
「――行く」
目にも止まらぬ速さで、シルバーは屋上を出て行った。
……まじかよ。
あいつもチート性能持ちなのか。
ちょっと複雑な気分だ。
「……お前、シルバーの扱い上手くなったんじゃねー?」
「そうかしら……ほら、あなたも行くわよ」
「しゃあねーな……」
無意識ってとこがクリスの怖いとこだよな。
渋々承諾し、立ち上がってケツについた砂埃を払い落とす。
先ほど破壊された扉を通過して、階段を降りる。
日差しが暖かかった屋上にいたせいか、校舎内は少し寒く感じた。
「ねえゴールド」
階段を降りるのに併せて、一足先行くクリスの頭が揺れる。
「あ?」
「……ゴールドってシルバーのこと好き、よね?」
「はあ?」
足が止まる。
突拍子もない質問に、我ながら間抜けな声が出た。
クリスが振り仰いでオレを見た。
その目は、からかう隙が無いほど真面目というか純粋だった。
「……それは、どーいう?」
「え……シルバー愛してるぜっ!って方じゃない?」
「……………………」
「ゴールド?」
やっぱりこいつにはかなう気がしねえ。
オレは今日屋上に行ったことを心の底から後悔した。
「……オレってそんなに分かりやすい…?」
「んー……普通のクラスメートは気づかないと思う」
普通のクラスメートって…。
じゃあ気付いたクリスは、普通のクラスメートじゃねえってことかよ。
……ああ、でもそうかもしれねぇ。
確かにクリスは、飾らないでしゃべれるやつらの一人だ。
「……シルバー、気づいてっかな」
だが、その論法で行くとシルバーもオレの気持ちに気づいてることになるだろうが。
それは、まずい。まずすぎる。
「…気づいてない、と思うわ。だってシルバー、勘は鋭いけど恋愛事には興味ないみたいだし」
「……まあ、確かにな。何せバレンタインも理解しとなかったヤローだしなぁ」
再び階段を降り始め、オレはクリスの横を通り過ぎた。
「ねえゴールド」
クリスを振り仰ぐと、彼女の透き通った瞳に、見竦められた。
「?」
「疑似恋愛、利用しない?」
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