4.








生徒会の情報が一般生徒に伝わるのってこんなに速えもんなのか。

生徒会室を出て、廊下を歩いていると、女子達が好奇と期待に満ちた眼差しでオレ達をちらちら見つめていた。ちらちらっつーかもう、ガン見。
オレ達が揃ってるってそんなに珍しいかね。


「はあ…………」

「いい加減諦めろ」


隣を歩くシルバーは平常運転。
つまり、女子の期待に満ちた顔に囲まれても、いつもと変わらず小憎らしいスカした面。
一体どうやったらそんなこと出来んだよ意味分かんねえ。


「あのゴールドがため息ついてるわよ」

「シルバー君が何か無茶なこと要求したんじゃない?」

「でもあの二人が腕組んで歩いてるって貴重よねぇ。疑似恋愛だとしても」

「っていうかどっちが下なのかしら」

「シルバー君だとあたし嬉しいなぁ」

「はあ!?あんたシルバー君のかっこよさ知らないの!?それにゴールドは襲い受け属性なのよ!」


…………頭が、痛え。
さっきから聞こえてくるのは全部こんな感じの会話だ。
ギャルっつーか女子ってこんなに怖いもんなんだな。
一体女子の脳みその構造はどうなってんだか。
全くもって理解不能だぜ。
それに好奇心丸出しの視線の的になるのも、こんないかがわしい会話の的になるのも慣れてないから余計に疲れる。
そのことは同じ、はずなのに横を歩くこいつは涼しい顔をしてる。
ほんとシルバーってなんなんだ。


「っつーか何でオレ達こんなことしてんの」

「先輩に頼まれたからだろう」


そんなことは分かりきってるっての。
そんで頼まれたっていうよりあれはむしろ恐喝に近い。
ただでさえ先輩の頼み事は断りにくいのに。
しかも今日の生徒会室の雰囲気はいつもと違ってなんかこう、ピリピリしていた。
……そりゃそうか、教育委員会からあんな学業無視度マックスの条文出されたら、自主学習奨励学校のうちの生徒会が黙ってるわきゃねぇよな。
それになんたってあの先輩方だし。


「でもよー、手本だから期限は二週間ってのが唯一の救いだよな」


本当の疑似恋愛ならばその期間は二週間以上。
だが、オレ達は手本でしかないから、他の生徒達がその条文を理解してくれるまででいいらしい。
オレ達の役目はあくまで、デモンストレーション。


「……確かに。これが二週間続くのはさすがに堪える」

「今のお前のどこが堪えてんのかなぁシルバーちゃーん?」

「ちゃん付けするなしばかれたいのか」

「照れんなよーシルちゃんオレ達恋人だろー?」


しばかれた。
腕組んでない方の手で思いっきり。
今のはなかなかひどい。
てゆーか人でなし!
じろり、と鋭い刃のような煌めきを宿した銀の瞳がオレを見る。
つられて、真面目な表情になってしまった。


「勘違いするな。恋愛ではなく疑似恋愛だ……まあ、お前なら大丈夫だと思うがな」


シルバーは唇に信頼とも嘲りともとれる笑みを浮かべたまま、ふいっと視線を逸らした。


何だそれ。


今の発言は結構グサッときたんですけど。


お前なら大丈夫って、それはつまり、

オレだったら、シルバー、お前に惚れないだろうってことかよこのスカタン野郎が。

ふざけんな馬鹿野郎。

…………そんな信頼、いらねぇのに。
っていうか既にその信頼裏切ってるんだけどよ。


「このオレ様がお前なんかに惚れるかっつーの!オレはクリスみてーなギャルが好きなんだからな!」

「……そうだったな。忘れていた」

「だったら、二度と忘れねぇように脳みそ刻みつけとけ」


逸らされた銀の瞳を見据えて、オレは挑発的に笑ってやった。

…オレって結構バカかもしれねぇ。



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